
* 先生の闘いの章 *
任務をとどこおりなく終え、木の葉の里の門をくぐった時、はりつめていた緊張感がスッと軽くなるのを感じた。
今回は一ヵ月間の、自分にとってはそれほど長くはない旅だったが、下忍になって半年足らずの三人にとっては、はじめての長旅の忍務であった。無事に忍務をこなすのは無論だが、担当上忍としてあいつらを無傷で、その上に何かひとつでも成長させて戻って来たいという願望のために、俺がどれだけそのことに心血を注いだか。
こういう"情"的な部分は報告書には書かないし、決して表面には出すことはない。しかし俺たちの班のキズナは今回の旅で以前よりも強く、深いものになっただろうと想像する。
次の忍務で、あいつらはどんな姿を見せてくれるだろうか。とても楽しみだ。
里に入るとすぐ三人とは別れたが、家に戻った俺を待っていたのは伝書鳥だった。三代目からの呼び出しを伝えるものだ。
俺は何か予感がして、汗とほこりにまみれ汚れた、緑のセットアップスーツを脱ぎ、新品の緑のセットアップスーツに着替えた。そして急いで三代目の元へとはせ参じたのだ。
三代目は執務室におられた。
いつもながら威厳のある、まなざし。永きにわたる風雪を耐え、忍び、木の葉の里を皆が安住の地として平穏に毎日をすごすことができるようにと気をぬく暇もない日々。齢…えっといくつだったかな三代目は。
「ガイ」
執務机に軽く手をのせ、三代目は口を開いたのだった。
「報告書は、明日にでも」
「うむ」
三代目は目をとじ、何か考えておられるようであった。
しばらく時は、すぎ。三代目はゆっくりと話し始めた。
「奇妙な依頼が、来ておる」
「奇妙な、とは」
里に危険をおよぼすようなものでしょうか。
俺の問いかけに三代目は、
「心あたりは、無いかのう?」
「心あたり。俺に、ですか」
三代目は返事をする代わりに、考え込むしぐさをした。
「お前たちの班が里を出てから十日後くらいからであったか、里の忍務依頼所へ、妙なことを依頼してくる輩がおっての」
平和な里の空気を乱す事件が俺の留守中に起こっており、それを解決してくれという事だと、すぐさま俺は解釈した。
三代目が言いよどみ、事の核心に触れるのを躊躇しているのは、俺がたった今、忍務を終えたばかりで、疲労しているであろう体に気を使ってくれているからなのだ。あの三人と行くのは無理だとしても、他の上忍と組んで動くのであれば、充分忍務につくことはできる。
呼び出しの際に胸騒ぎを感じ、着替えてきたのは正解であった。
「三代目、ご命令とあらば今すぐにでも出発できます」
三代目は俺を見上げた。俺の言った真意をはかりかねているような顔つきだ。
「出発するとな?お前、忍者をやめるつもりか」
やめる?忍者を?この俺が?
木ノ葉の忍の最後の一人になろうとも忍を捨てることなど、決して、ない。
三代目がその事を一番良く理解しておられるハズではないか!
「三代目!俺の忍道は…」
執務机に音を立てて両手を置き、俺は三代目につめ寄る。
「おちつけ、ガイ」
あくまでも三代目は冷静で、席から立ちあがる。手を後ろで組んで、ゆっくりと俺に近寄ってきた。
「おまえ、本当に行くつもりなのか」
「里の危機とあらば、この身、果てようとも悔いはありません!」
「まあ、熱くなるな。それに、じゃ。里の危機という程の事ではないしの」
「はっ?」
三代目は俺を見上げ、少し笑った。
「おまえ、何かカンちがいをしとるようじゃのう」
「カ・カン違い、ですか?」
三代目は机の上の数枚の紙を俺に示した。
「なんですか」
「忍務依頼じゃよ」
そこには。
・忍術ショーをぜひうちの街でもやってくれ
・今度は女の子ばかりの忍術ショーが見たい
・ぜひ孫にも見せたいので次回開催場所を教えてくれ
「これって…」
「その様子じゃ、心当たりはあるようじゃの?」
依頼はマンザイ親子キュウリーズの代演をやった街から来ているものだった。
俺は内心かなり動揺していた。冷や汗がじんわりと出てくる。
「先程『行く』と言っておったが、その依頼受けるつもりか?」
「あ、いや、その」
三代目はため息をついて
「忍者が忍者ショーなどして、どうする」
それとも忍者をやめてそれを本職にするつもりなのかと問う。
「この件はですね、いろいろとワケがありまして」
いつもは達者でなめらかに動くこの口が、今日はもうしどろもどろで、自分でも上手く説明が出来ず。とにかく忍者ショーというか、キュウリーズの件が里にも知られているとはさすがの俺も気付かなかった。
三代目は窓の外を見やりながら
「おまえの事だから、親切心でやった事だろうがの」
「はあ」
「宿泊した旅館からは出演料からこわした部屋の諸道具をさし引いても足りないと、請求書が来ておるしの」
「…できるだけ、その、力はおさえたのですが」
「お前に限らず、修理代等の請求には慣れておるが」
三代目は俺にふり返り。
「今回、特におまえを名指しで指名が来ておるのが多い。その時のおまえの張り切りようが目に見えるようじゃ」
ニヤリと笑った三代目は、
「人気者はツライのう」
俺は三代目のその、冗談とも本気ともとれないセリフに笑えずにいたのだった。
体の至る所に冷や汗をかいて、三代目の部屋を退出した俺を待っていたのは、俺の永遠のライバル・天才忍者のカカシだった。
手すりに腰かけて右手を挙げ、俺を見る。
「よっ。人気モノ〜!」
「言ってくれるな、カカシ」
「サインなんか、もらっちゃおうかなあ…」
「バカ言え」
「俺も忍者をやめちゃって、忍者ショーに参加しようかなあ」
「天才は、おことわりだ」
「あら、それって、差別でしょう…」
俺が嫌がっているのを知っているくせに、カカシは俺をからかうのをやめようとしない。
ホントにこいつは嫌なヤツだ。
しかたがない。
対決だ!
そのころ三代目火影は、自分の同年代であるお年寄りたちの、純粋に忍術が見たいという要望を断りきれず、引退した忍者を慰問団として派遣しようかと、思いをめぐらせていたのだった。

一番最初に書いた「ガイ先生もの」です。
勢いで書いたので、
ガイ先生出てくるなり、道に突っ込んでケガしてますが、
そんなの、ありえないですよね。でもまあ、
その時はそれでいいと思った自分がいるので
削らずに、恥を覚悟で載せています。
あと、カカシとのやり取りとか、
今ならもっと違った会話をさせるかも。
「リー君目線」「ガイ先生目線「締めは、三代目」。
最初だから、面白がってそんな構成にしたばっかりに、
おぼえ書きシリーズは三部構成でないとダメ、と、自分ルールちっく。
なので、あとになって、ちょっと大変です。
(だから、パート2までしか書けてない)
ここでは先生は、自分のことを「俺」って言っています。
本で出したこの時は、なにも考えず、漢字のままでした。
ウエブに載せる時に、うちのガイ先生は「おれ」と、
ひらがなでいくことにしたのです。
「俺」と「おれ」の違いだけでも、なんだか別人みたいです。
でもその時はそれでいいと思っていたので、
(それと変えるのは面倒なので・笑)、そのままで置いておきます。( 2005.4 )

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