fly high and low
今日もガイが里の中を走っていく。
それは特に珍しい姿でも出来事でもない。だが、体中あちこち傷だらけ。顔にもベストにも緑の服にも、まるで激しい戦闘のすぐ後とも見まごう切り傷があったり汚れが付着していた。それは、たとえ、トレーニング中なのだとしても、里で平穏に暮らしている姿には見えなかった。
ガイとすれ違った人々は一様に、彼の走っていく姿を振り返る。そして口々に言い合うのだ。また、お出ましになったよ、と。
そんな人々の声など全く聞こえない様子で、髪を振り乱し汗を飛び散らせながら走っていくガイ。そしてその姿を見つめる人の姿。
それはここ数日の昼下がり、毎日のように繰り返されていた事だった。
道行く人の目を釘付けにしたのは、ガイのその荒れた任務終わりのような風体だけではなかった。
ガイが、それまで何も無かった場所へ突然、姿を現していた事が、そもそもの原因だからだ。
風のように走り来たり目にも止まらない早業を使いその場所へと移動したのとは明らかに違った。いつも一瞬にして現れ出てきた。
その姿は不思議な事に地に足が着いているのは稀で、大抵は空から落ちて来たのだった。そしてその出現場所も、毎回同じではなかった。
木のてっぺんに、引っ掛かっていた時もある。広場の真ん中にある噴水に、頭から突っ込んできた時もある。電線に引っ掛かり、宙吊りになっていた事もある。上映中の映画館のスクリーンにぶつかるように現れて、それがちょうどラストシーンだった為に、台無しだ邪魔だと観客から非難を浴びた事もある。人のいない静かな場所で愛を語らっていた恋人たちの仲を引き裂こうとするかの如く、若いふたりの真上から、しかもお尻から、真っさかさまに落ちて来た事もある。
高所から早いスピードで急降下し、その身を嫌という程の力で地面に叩き付けられもした。家畜の群れに落ちた時には、生きもの相手に下手に手出しが出来ずに、暴れる牛や馬の足に踏み付けにされっぱなしの時もあった。
いつも傷だらけなのは、そのせいだ。
反射神経が人より特出しているとはいえ、思いもかけない場所へと出現した時には、自分の実力が発揮出来ない事も多々あった。
そんなガイの、ここ数日に渡る不思議な行動を知らない者は、この里にはいない。そんなふうにすぐに人の噂に登るほど、ガイは頻繁に里のあちこちの予期しない場所へとその姿を現していた。
けれどその出来事は、人に見られている場所だけに起こった事ではなかった。
誰一人足を踏み入れない、イバラ同士が絡み合うイバラだらけの森にも落下した事もある。体中イバラに取り囲まれ動くと傷だらけになるのだけれど、もちろんそのままの状態でも体中にイバラが喰い込んできて痛くてかなわない。動くと痛いし動かなくても痛い。八方ふさがりの中、誰にも助けを頼む事も出来ず、大変苦労して脱出してきた。この時も当然のように全身が傷だらけになっていた。
里の奥深くにあり、あまりに深すぎて本当の水深が知れない湖に勢い良く落ち、水の中の植物に足を取られて危うく溺れかけた事もある。この時は全身すぶ濡れになって、体中に絡み付いて離れない海草をくっつけたまま戻ってきた。
切り立った剣のような山肌の頂きに、引っ掛かっていた事もある。この時は3日ほど身動き出来ず、目ざとく見つけた禿鷹が、餌にしようとスキを狙い、何度も頭の上を回旋して舞うという、スリルある体験もした。
それらを知る人はあまりいないが、そんな人の目の届かない場所へもガイはいきなり現れて、落ちる場所さえあれば引力の為すがまま、その身を地上へ落としていたのだった。
予告も何もなしに急に現れたのを皆が驚き、注目して見ている中、当人は苦笑いをして起き上がりつつ、今自分がどの場所にいるかをキョロキョロと見回し、満足げな表情を浮かべたりガッカリしたり。そして今いる場所の位置確認をすると、体の埃をはたく時間も惜しいという様子で、その場を後にする。
いつもガイは、とある演習場めがけて走って行く。行くというより、戻っていく、と言った方が正しいかもしれない。現れた場所により、走っていく道もその距離も違っていたのだが、いつも帰る方向は同じだった。
おおかた、何かの技の練習をしているのだ、と予想は付く。けれど突然空中へと現れ出る技とは、一体どんな技なのだろう。しかもどこに現れるのか、当人も予期が出来ない技。
それが一体、何の役に立つのか、と皆笑っていたのだが、どんな傷だらけになろうと嬉しそうに走って戻っていくガイを見るにつけ、もしかしたら技以外の何かがあるのだろう、と好意的に解釈する者もいた。例えば不意の敵に襲われた時の、里での対処法のシュミレーションだとか。はたまた、任務服の耐久性をテストしているに違いないのだとか。
確かにガイの現れ方は、いつも意表をついていた。そしてなかなかハードで痛ましい状況に置かれていた。
けれど当人はその状況を苦とも思わないらしく、いつも以上に元気で陽気に走っていたのだった。
里でも一番奥にある演習場へ、ガイは風の如く走って帰ってきた。そして、木陰で座り、目を閉じて休んでいるカカシの前に立った。
息が荒いまま仁王立ちしているガイに気付いたカカシは、上目遣いにガイを見た。不満そうな顔つきだった。
「遅いよ、ガイ」
「そう言うなカカシ、かなり遠くまで行けたぞ」
「どのへん?」
カカシは地図を取り出して、広げてガイに見せた。
その地図には、日付と共に×印が記入されていた。古い日付けならばこの演習場に近い地点が、日が経つにつれて段々と離れた場所へと移動するように×印が付いている。広範囲に渡って×印はたくさんつけられていた。
ガイは得意そうに今日の場所を指しながら、
「…な?昨日よりも、かなり遠い所だ」
その場所を見たカカシはガッカリし、
「少しだけだヨ」
「だが、今までで一番高い場所だったぞ」
ガイの指が示す場所には、楕円系の線が引かれ、山を表わす色が塗ってある。
「高い…そうか。高さ。お前、イイ事言うネ」
体が疲れているせいなのか機嫌が悪そうに見えたカカシだが、高さと聞いた途端、明るい顔をする。筆記具を取り出すと、さっきガイが示した場所を地図の上に書き込み始めた。
「カカシ、お前の具合がよいなら、おれは一向に構わないぞ。まだまだ、大丈夫だ」
一瞬でもじっとしているのが嫌なのか、ガイは少し離れた場所でシャドウボクシングを始めた。
その後ろ姿をふと見たカカシは何かを見つけたのか、不思議に思い、尋ねてくる。
「ガイ、お尻、引っ掛けた?」
見ると幾本の鉤裂状の筋が入り、肌が見え隠れしていた。
「んむ?ああこれは、さっき山の中で、数匹の獣の真上に落ちた時に鋭い爪にやられたのだ」
「ふうん」
「尻だけでは無いぞ、ほらここも」
言うとガイは、ベストで覆い隠されている部分を見せた。喉元も胸も腹も服が裂け、傷が出来て血が滲んでいたりする。見た目は大そうな傷なのだが、当人は気にする風でもない。傷口へ手荒く消毒薬を塗り込んで、彼なりの処置は済んでいた。
「落ちる時にベストが木の枝に引っ掛かってしまってな、宙吊りになりかけたので一旦脱ぐしかないと思った。だが足場にしていた木の枝が弱かったとみえて、ベストを脱いだ途端に枝が折れ、下へとまっさかさま。そこに待ち構えていたのが」
ガイは両手で、獣の大きさを表わして見せた。ガイの肩幅と同じくらいの長さだった。
「獣にしては小さいネ」
「ああ」
「にしては、傷が大きい」
「体つきの割に爪がとても長く鋭く、しかも尖っている。数匹に飛びかかられたからな。とはいえ、この程度の傷で済んだのは、ひとえにこのスーツのおかげだ」
ガイは自慢するでもなく、いたって普通に、自分の着衣を手で撫でている。
カカシは、ぼーっと聞いていたが、急に意識を取り戻したように数回まばたきをし、
「その獣って」
と興味ありそうに、つぶやいた。
「お前、覚えてはいないか」
ガイの説明する獣の大きさと特徴を聞き、カカシは考える。
「…ヤマネコオオカミ?背中に、茶色の斑点のある?」
「そうだ。数が減って最近は殆ど、その姿を見かける事のない希種だが」
「小さい頃には、近くの山に沢山いたよ。仕掛けを作って、良く捕まえたね」
「家へと連れ帰り、戻してこいと叱られた」
「ガイが飼うって言うから」
「それは、お前だろう」
「俺はいつも反対したヨ」
「おれの食い物をやったりして、手なずけていたのはお前だ、カカシ」
「そうだったっけ」
「見かけと違って結構、獰猛なのだ。だからこのように」
ガイはあちこちに出来た傷を撫でつつ、さほど痛くない様子でカカシに向かって笑ってみせる。受けたその傷は、獣を傷つけずにいた証しなのだと言うかのように。
「懐かしいナ」
カカシは木の枝を拾い上げて、地面に絵を描いた。丸いボタモチに三角がくっついているという、ワケの分からない絵だった。たぶん、ヤマネコオオカミをカカシの目で見るとこう見えるのだろう。それとも、本物を記憶していても絵でそれを再現する能力が備わっていないのか。描かれた絵は、本物とは似ても似つかぬものだった。ガイは近寄ってきて絵を見下ろしたが、その絵については何も言わずにいた。
「絶滅したと聞いていたが、人の手の入らぬ地域には、まだまだいるのだな」
「可愛いんだ、クリっとした目がビー玉みたいで」
カカシはボタモチの内側に、目のつもりなのか黒い丸を左右ひとつずつ、ぐりぐりと書きつつ、その獣を何故ここへと連れて来なかったのかと、非難する目でガイを見た。
「ワガママで人間の言う事を聞かないところが、これまた、可愛いんだ」
ガイはカカシの持っていた木の枝を取り上げた。そして、カカシの絵のすぐ隣の地面を掘るように、線を引いた。その図形はクニョクニョとまるで雲のようで、何なのかという前に、どこが上なのかすら分からない。深く掘りすぎて所々溝のようにもなっている。
カカシは首をかしげて覗き込んだ。
「…何、コレ?」
「見て分からないか」
「えと。そうだな…オバケ、でしょ!大当たり!!」
「馬鹿カカシ!これは、ヤマネコオオカミだ!」
さっき見たばかりだから本物とそっくりの筈だ。そう自信ありげに力強く胸を張るガイに対して、今度はカカシが黙る番だった。
それよりも数日前の事だ。
カカシとの勝負に寸分の差で負け、悔しがり地面を拳で殴り付けつつガイは、木の幹にもたれて息絶え絶えなカカシに言った。
「認めるぞ、負けを!!」
「アブナカッタ…じゃ、言う事を聞いて、ガイ」
「…負けたらそうすると約束したからな。男に二言はない。煮るなり焼くなり、お前の勝手に」
言い捨てて、地面に大の字になったガイに、カカシは
「じゃ、三ヶ月。お前の休みの日は全部、俺の技の開発に付き合ってもらうヨ」
「よし」
「この目の新しい使い方を試してみる」
「それならば、おれではお前の相手にならんぞ」
「目を見なくても動きを察知するから?」
「そうだ。いくら万華鏡写輪眼を得たとて、術者、つまりお前の目を見なければその技は発動できぬ事くらい、おれでも知っている」
「お前は足の動きだけで察知するからね。目を見ないお前には、使えない」
「当たり前だ。昔は足元を見て次の動きを予見していたが、今のおれならば目を閉じていてもお前が次にどう動くか、分かる時もあるくらいだ。写輪眼は、おれには効かぬぞ」
「だからだよ、ガイ。だから目を合わさなくても、俺が相手を見ただけで、技を発動出来ないものかと改良してみた。相手の目は関係ナシに」
「お前の目を見なくても?」
ガイは困った顔をしたが、それも一瞬の事で、すぐさま満面の笑みを浮かべた。
「なるほど。それは…手強いな」
「これなら俺が見えている範囲であれば、遠く離れている相手にも、技を使えるデショ」
「それはますます、手強い」
「だからお前の体が必要なの」
「どうするのか分からんが。約束したからな。お前の自由にしたらいい」
そんなわけでガイは、カカシの瞳術の仕上げを我が身を使って手伝っているのだ。
ガイの描いた、自称ヤマネコオオカミだという、どう見ても雲のような絵の上にカカシは大きく×印を入れた。その後、心ここに在らずといった様子で、地面を木の枝で突ついている。何か考えているようだった。
「体は飛ばせるようになったケド…」
不満そうに言うカカシに、腕組みをしたガイが応える。
「もう少し距離が出ないと話にならん」
「距離もだけどさ、目指すトコロはね、体の一部だけを…もぎ取って飛ばしたいんだ」
「一部だけだと?どうして…」
一旦言葉を切ったガイはすぐに、ああ、と納得したようすで、
「人の体を飛ばすだけだと、別の場所で生存しているわけだから、またいずれ出会う事になる。しかも短い距離だと、走って戻って来てしまう。おれのように。だから体の一部だけをもぎ取り、敵の戦闘能力を奪うのが目的なのか」
「そ。もしお前に使うなら、足を狙う。足だけを別の空間へ移動する事が出来たら、お前は自分の持つ技のほとんどを使えない。つまりソレは、お前を殺す事に匹敵する程の威力がある」
「確かに、そうだな」
「それに一部分だと、やり方に慣れたら、チャクラの消耗は少なくていいカモね」
「一石二鳥というやつか」
「ケド今はまだ、お前の体を、その空間丸ごと飛ばすのが精一杯だ」
「しかも里の中の短い距離しか、だ」
何度も同じ事を言われて、カカシはムッとする。
「分かってる」
でも、長距離飛ばすには、チャクラの操作が上手く出来ない。チャクラというより、コツ、のようなもの。なかなか会得できなくて、でも素直にそう言えなくて、カカシは押し黙る。
ガイはその場所をうろつきながら、
「しかし、体の一部だけ、となると、使うチャクラは少なくていいかもしれないが、コントロールが難しいのではないか、カカシ。今のようにおれの周りの空間の全て、という大きな範囲を飛ばすのではないぞ。目標とする範囲が狭い。しかも相手は、じっとしてはおらんだろう」
ガイは立ち止まった。じろ、とカカシを見た。
「動く目標の一部だけを狙うとなると…素人考えでも、その技はとてもハイレベルだろう」
「だから、努力目標」
「ふむ。いい言葉だ」
「もうひとつ狙っている事はね。自分も飛ばせたら、いいかな、とか」
「目標がたくさんあるのはいい事だ。熱くなるぞ、カカシよ」
「お前が熱くならないでよ、ガイ」
「おれも協力するぞ、カカシ。おれの体が必要ならばいくらでも使え」
張り切って笑うガイに、カカシは苦笑する。
「いくらなんでもお前の足は、一回飛ばしたら、もう二度はナイでしょ。練習にならないヨ」
言われてガイは、あっ、と大きな声を上げる。
「カカシ、前言撤回だ。おれにも協力できぬ事もあった。それだけは…足を飛ばされるのは、困る。困る…」
ぶつぶつ言いつつ、何かいい方法はないものかと思案していたガイだが、
「とりあえずカカシ、距離を…」
と言いかけて、何度同じ事を言っているのか、とガイはようやく気付いた。
「おれにはよく分からんのだが…」
実際のところ、どうやって見ただけで物質を遥か彼方へ飛ばす事が出来るのか、ガイには皆目見当も付かないのだった。分からないまま日々あちこちへと飛ばされてきたのだ。
どこへ行くか分からないというミステリーは、けれどガイにとっては、不安感よりも期待感の方が大きかった。
どこへゆくのかと、心が踊った。喜びすら胸に湧いてくる。到着した場所からの道のりを、走って戻る事にも喜びを覚えるガイは、どれほど過酷な場所へ飛ばされようとも、さほど苦痛に感じなかった。それよりも自分では行かないような場所へと、この身を運んでくれる不思議な瞳術を、歓迎していた。里の中とはいえ、まだまだガイの知らない場所もたくさんあったのだ。
瞳術を試したいカカシと、あちこちへ飛ばされることをトレーニングの一環として考えているガイ。ふたりの利害関係はまさに、一石二鳥、だった。
とはいえ、ガイがカカシに協力しているのは、そういう゛利害゛という言葉を超えたものだった。けれどこれが互いに反対の立場だったとしても、きっと同じ事をしているに違いない。
そうだ、とガイは大きな声を上げた。
「なあ、カカシ。空中以外は無理なのか」
確実に人を飛ばせる力を持てたのだから、今度は空中以外の場所へ移動するという事は出来ないものか。
空中以外。それまではどこへ飛んでゆくか分からないままにただ、飛ばしていたけれど。出来るならば地上の、土の上へ。思った場所へ。そういうコントロールも、やろうとすれば出来るのではないのか。
「それは、俺も考えてた」
カカシは木の枝を捨てた。土の付いた手をはらう。
「意識を下のほうへと向けたなら、もしかしていけるカモ」
「今からやってみるか、カカシ。体の方は、どうだ」
瞳術自体、かなりの体力を消耗する。しかもカカシの場合、その目は元来、自分の持ち物では無い為に、通常よりも多くの負担がかかってしまう。そのせいで、一日の間に連続して幾度も練習するという事は無理だった。カカシの体調と相談しつつ、一日のうち一度か二度試す事が出来ればいいほうだ。
最初のうちは近距離でも消耗が激しかったカカシが、日にちが経つにつれて慣れてきたのか、疲労度は軽くなってきた。
さっきガイがずっと言っているように、せめて里から出る距離くらいは飛ばせないと、実践には使えない。なのでとにかく日々、距離を伸ばす事を目標に頑張ってきたのだが。
「高さの分を距離に足せば、里はカンタンに出てる筈なんだ」
「ならば、次は」
対象物を自在にコントロールして思う場所へと飛ばす事が出来るように。
「やれるか、カカシ」
腰に手を当てて、ガイは準備万端すでに整っているという顔をする。
カカシは深呼吸して立ち上がった。
「じゃ、いくよ」
そしてカカシの前から、ガイの姿は消え失せた。
近頃ガイが空から落ちてこなくなったと皆が首をかしげていた数日後、今度は岩だらけの場所へ、ガイはその身を現わした。
いきなり道にヒビが入り土が割れ落ちたと思ったのも束の間、開いた穴から、黒い髪を丸く刈り込んだ頭が出没した。
幸か不幸か、そこには誰もいなかった。見渡す限りどこまでも、土の色が四方を囲んでいた。
穴から顔を出したガイは、何が自分の身に起きたのか判断できず、茫然と土の中に身を置いたままでいた。そしてようやく、自分が埋まっているのだと気付いたのだった。
カカシめ、下のほうを狙うと言いつつ、土の中とは下過ぎるではないか。
腹立たしく思いながら、それにしてもここはどこなのだ、とガイは首をひねった。
見覚えの無い風景が目に映る。暫くあたりを見まわしていたが、人らしき影が穴を翳らせた。見上げると、まわりを数名の男が取り囲んでいた。彼らの額当てには、岩隠れの忍のしるしが刻んであった。
「ここは、…土の国なのか」
もしそうだとすると、里からここまでは結構な距離になる。さすがカカシ、大したものだと感心していたガイだったが、他国の忍たちが自分に向ける訝しげな視線に、この状態をどう説明したらいいのかと、さすがのガイも困ってしまった。
そして立ち尽くしたままで、低く唸り声を上げた。
(終)
2005.10.24 |