心地よい勘違い

 ガイはカカシをおんぶして険しい山道を歩く。上り坂にさしかかり、カカシが首を締め付けるような強さでしがみついてくるのに気付き、ガイは言った。

「おい、強く掴むと痛い」

「だって落ちそうなんだもん」

「どこまでも手間のかかる奴だな、お前は」

 よいしょ、と、ガイはカカシの体を持ち上げるようにおんぶし直す。
 そうして岩ばかりの道を注意深く歩きながら、ガイはつぶやくように。

「なあカカシよ。背後に人の温もりがあるというのは何だかいいものだな」

 自分は一人ではないという安心感がある様な想いを抱いたガイは立ち止まる。そして、カカシにたずねた。

「背中が暖かいと、何だかお前に守られているように感じるな」

 カカシはガイの背中に全身を預けて、小さく言った。

「何ソレ? 何、そのカンチガイ」

 自分の言葉を否定されて、ガイは後ろを振り向いた。

「勘違いだと?」

「ガイ、俺はお前を守らない。自分以外の人間を守れるんだったら、今、こうやってお前におんぶなんてされてない」

 カカシは顔色ひとつ変えずに言った。そうやって一種、自信たっぷりな口調で断言されると、ガイは苦笑するしかない。

「確かにそうだが。だが勘違いとはどういう事だ」

「ガイは分かってないな」

「お前はどこまでも偉そうなのだな。分かってないのはどっちなのだ。自分の置かれている状況を考えてみろ。そんな口を聞くのなら、今すぐに降ろしてここへ捨てても構わないのだぞ」

「それを言うなら。お前は守られてるんじゃなくて、背負ってる俺を守る立場だろう。なのに、俺をここに置いていったら大変な事になるぞ、知らないから」

「ふん、どんな大変な事になるのだ、参考までに聞かせてもらおうか」

「………」

 その後の返答次第によっては、本当にここへ置き去りにされてしまいそうだった。カカシは言葉につまって、黙ってしまった。

 その場でカカシをおんぶしたまま、突っ立って休憩をしていたガイだったが、しばらくするとまた前と同じように歩き始めた。そうして、話を続ける。

「カカシよ、お前はさほど人をおんぶした事がないから。おぶった者の背中の暖かさを知らぬからそう言うのだ」

「それは…あのさ」

 カカシはとても小さく、か細い声でつぶやいた。

「俺は誰かをおんぶした時の、自分の背中の暖かさなんか知りたくないよ。だって俺は、背負うよりも背負って欲しい人だもん。それにチャクラの少ない俺が誰かを背負うなんてそんな非常事態、頻繁に起こったら困る。なにより、ガイの背中は俺の…」

 カカシは語尾をごまかした。聞こえずにガイは聞き返す。

「…うん? 今、何と言った?」

「守るとか守らないとか、そういう決め事で片付けられるものじゃなくて、ここは、ガイの背中は、俺の指定席…じゃないな、予約席…でもないか、つまりう〜ん、あらかじめ決めてなくてもいつでもフリーパスでOKな場所、そういうものなの、分かる?」

「カカシ、それはつまり…」

 ガイはしばらく考えた。そしてハッとした顔で、

「そうかカカシ!おれにおんぶされるのが、たまらなく心地よいというわけなのだな、ふふん、そういう事だな」

 威勢の良いガイの答に、カカシはハァと溜め息を付く。

「それもまた、カンチガイ」

「分かった分かったカカシよ、おれが悪かった、そうだな、一生、何かあったらお前の事をおんぶしてやるのはおれだ」

「やっぱりお前は分かってないよ」

 カカシの言葉に返事を返さずに。気分良さそうに鼻歌を歌いながら、ガイは再び歩みを進めてゆく。
 坂は下りにさしかかる。カカシは自然と、ガイの背中にもたれるように体重を預けた。
 ガイのその暖かな背中に揺られながら、いつの間にか、カカシは心地よい眠りに誘われていった。

(終)

2009.08.29


「人は後ろから抱きしめられると、守られているという安心感があるらしい」

ネタ帖にこの一文が書いてあって、頭の中では笑い系のネタになる筈と拾ってきたのですが、書いてみたら、笑いどころか、ナニコレ、甘いガイカカ風?

カカシが言いたかったのは多分、ガイ先生とカカシとは、守られたり守ったりとかの事をあらかじめ決めてどうこうする間柄ではなくて、ただその場に自然に存在している、しがらみも決め事も何もない関係、という事みたいだけど、

ガイ先生には微妙なニュアンスは伝わっていないようで、勘違いしまくりなのがガイ先生らしさというか、それを聞いたカカシの、まあいいかというあきらめに似た安堵感もカカシらしいというか。