盆栽U・ 模擬試合
木ノ葉の上忍待機所。午後4時41分。
アスマが一人、つまらないという顔つきで、何やらゴソゴソやっている。
机の上には書きかけで放ったままの報告書。その紙の上に、数本の松葉が
散らばる。
針のような葉を2本交差させ、左右にひっぱり。
プチン。
小さく音を立て、右の葉が、左の゛くの字゛の根元をつなぐ茶色の部分を
破壊し、2本の棒へとその姿をバラバラにさせる。
プチン。プチン。
「カカシ、強えな」
松葉それぞれに名をつけて。闘いの如く、引き合う。模擬試合のつもりか。
カカシと名付けたその葉は、6戦連勝だ。アスマの葉は、最初に負けた。
「頼むぜ、ゲンマ」
言って、葉を交差させ、引っぱった。
プチン。その音をかき消すように、戸が音をたて開く。
「お前ひとりか、アスマ」
ゲンマが顔を、のぞかせる。
「ゲンマも弱えな」
葉をポイと投げ捨てた。聞こえないように言ったつもりが。
「俺が、何だって?」
耳をそばだて、ゲンマは訊く。
「別に」
「ひとり手遊びか」
アスマの手元を見る。
「寂しいねぇ」
言いながら。窓際の陽当たりのよい場所に置かれた、松の小さな鉢植えを
指すゲンマ。
「…あの、松の葉か?」
とがめるような、口調。
「落ちているものは、かまわねえだろ」
別に引っこ抜いた訳でなし。全く悪びれる様子のないアスマ。
とはいえ、囲いの中へと入らなければ拾えないのだが。
入るなと書かれた札など、アスマには全くお構いなしのようすで。
呆れながら、ゲンマは鉢植えを眺め見る。
「あんなに伸び放題でいいのか、おい」
「一回も、刈ってねえからな」
この場所へと置かれた時には、緑の部分が今ほど生い茂ってはいなかったのだ。
今や見た目、木の3分の2を占めるほど、針状の葉はその身を自由に天へと伸ばす。
「盆栽ってヤツだろ、これ」
とある大名が、しばらく家を留守にするという。
他国との友好のしるしの品々。留守の間に盗まれたり傷でも付けられては大変と、
主だった忍達に分散して、分けられた。
そして、この盆栽の鉢のクジを引いたのが。
「…ガイには、分かってねえだろうな、剪定って意味が」
「枯らさないようにすりゃいいだけなのに何故か、大きくしなくては、と思い込んでいる
フシがある」
「それであの、伸び放題か」
「声かけてるのを聞いたぜ」
大きくなれよと、言い聞かせるように。
「サボテンじゃあるまいし」
「だけど、結果、大きくなってる」
「植物とも会話が出来るのか」
「緑同志、何か波長が合うんじゃねえか」
ニヤニヤと笑うアスマ。
「緑同志、ねえ…」
説得力があるような、ないような。ゲンマは苦笑いする。
「さて、続きをするとしよう」
アスマは左手に持った“カカシ”に、1本の新しい松葉を交差させる。
「負けるなよ、ガイ」
肩をすくめて見守っているゲンマ。
ゆっくり左右へと松葉を引くアスマ。
ぴーんと張った2本の松葉。どちらもゆずらない。
「!?」
アスマは指先に力を込める。
…と、戸が開いた。はっと、ゲンマは何かを感じる。
「何を、しているんだ、何を持っている?アスマ」
ゆっくりと。アスマの元へと近寄ってくる影。緑がゆらゆら揺れている。
プチン。
アスマの手元に。4本の針状の松葉が、バラバラと落ちた。
それと共に。
アスマの頭の上へと、ガイの怒号が落ちてきた。
(終) |