餌やり奮戦記

 木ノ葉の里上忍待機所。午後2時56分。
 置かれたバナナの山。
 小腹がすいたのかゲンマ、1本手に取り。 一心不乱に食べている。と、そこへアスマがやって来た。
「何食ってんだ」
 ゲンマ、無言で食べ続け。口の中で甘みが増して、何とも旨い。
「誰のか知ってて食ってるのか、ゲンマ」
 訊ねるアスマ。
 ゲンマは口を動かしつつ、首を振る。 1本食べ終わり、もう1本へと手を伸ばす。
「そんなに旨いのか、というか腹減ってんのか?」
 呆れ顔のアスマ。
 そこへやって来たカカシ。ゲンマの手元を見。声にならず息を飲む。
 けげんそうなゲンマ。
 何事かと、カカシの顔を見るアスマ。
 カカシ、"俺、見てないし"と謎のセリフを残し去ってゆく。
「何だよ、あれは」
 不思議顔のアスマ。
「おーし!元気いっぱつぅう!!」
 陽気に入って来るガイ。
 振り返るゲンマ。ゲンマの手元を見つめるガイ。


「…あーっ!!」


「何だよ、大声出すなよ」
 ゲンマに走り寄るガイ。悠々とバナナを食べているゲンマ。
「お、お前って奴は!」
 ゲンマの手元から半分ほどになったバナナを、ひったくるように取る、ガイ。
 その様子に驚くゲンマ。
「これ、お前のか?ガイ」
 それにしてもこんなにあるんだから、1本や2本。
 こいつ意外とケチなのかと思うゲンマ。
 ニヤニヤ笑いのアスマ。
「アスマも見ていたのなら止めるとか、しろ!」
 顔を真っ赤にして怒っているガイ。
 アスマはバナナが誰のものなのか、知ってて黙っていたようだ。
「それ程大事なら名前でも書いておけ」
 窓ぎわでアスマ、煙草をくわえる。
「こんなにたくさん。ガイ1人で食うのか?」
 訳ありのようなので、とりあえず訊いてみるゲンマ。
「おれの大事な亀にやるのだ」
「亀を飼っているのか?」
「口寄せの亀だ」
 口寄せ?ああそういえば、ガイが大小取り混ぜ、いろんな亀と、口寄せの契約していた事を思い出すゲンマ。


「こういう事もあろうかと予想し、 バナナの番をしていろとカカシに頼んでおいたのだ。
 カカシはどこにいる?」


 それでさっき、カカシはゲンマがバナナを食べているのを見て逃げていったという事か。
 アスマは長く煙を吐き出す。


「カカシの奴は、バナナの番すら出来ぬ愚か者だ!」
 憤慨するガイ。


 これ位の事で愚か者扱いされては、里一番の天才忍者の名が泣くというものだ。
「1本や2本、いいじゃないか」
 気軽に言うゲンマに詰め寄るガイ。
「何と言った?食ったバナナを今すぐ出せ!吐け!」
 首を絞める勢い。
「許してやれよ」
 呆れ気味のアスマ。
 その言葉にキツイ視線を返すガイ。
「亀の食う分が減っただろう!!」
「また買えば済む話だ」
「そういう問題ではない」
 ガイはアスマを睨む。
「亀の横取りをするとはお前、まともな人間じゃないな!この人非人!!外道!!」
 バナナの事でそこまで言われる筋合いはない。思う、ゲンマとアスマ。
 けれどガイは、火がついた様に熱血怒っている。
「だからお前らには、なつかないのだ!口寄せしても来ないのだ!」


「亀なんて、役に立つのか、おい」
 アスマにこっそり囁くゲンマ。


「む?!」
 聞こえたらしい、ガイが2人の方を向き。


「亀な・ん・て・だとー?!」


 両手を挙げ、怒りここに極まれりといった様子で。
 頭の上から蒸気がシュポシュポ出ていそうだ。
「亀を侮辱する奴あ、このおれが許さないぞぉお!」


 戸がほんの少しだけ開いて。カカシがこっそり中を覗う。
 ガイを取り巻くチャクラの色が赤く燃えているのを確認し。
「うわあ恐い。入らずに帰ろうっと」
 音もたてずに戸を閉める。


「こんなに可愛いものがこの世の中に存在するかぁあ!」
 ガイは鼻息荒く右手を伸ばし。
「つぶらな瞳・小さな口元・堅い甲羅と愛らしいその短かい手足!」


 右手を上へと高く挙げ。
「どれをとっても文句のつけようがないではないか!!」
 今まで黙って部屋の奥にいたイビキ。低い声で言う。
「…しかも、1万年生きるって言うしな」
「そうだ!生きてこその人生だ!長生き!良い事だ!」
 ガイはイビキの元へと駆け寄り。握手を求める。
 しかたなく左手を出すイビキ。イビキの手を握りちぎれる位手を振り。
 満足したのか、ガイは気を良くする。
 今だ、とばかりにアスマ。声をかけた。
「その可愛い亀に、餌をやりに行けよ。待ってるんじゃないのか?」
「お・おう!」
 ガイは素直に答え。部屋の隅へと行く。
 みなは黙って様子を見。すると。
 ガイは左手の親指をキリリと噛んで血を出すと、右手のひらに軽くこすりつける。
「忍法口寄せの術!」
「こ・ここへ呼び出すのか?」
 目を丸くするゲンマ。
「外でやれよ」
 迷惑気味のアスマ。
 ボン!ボン!と煙が立ち昇り。
 大小さまざまな大きさの亀が現れてくる。
「うわ。30匹はいるよ。これ」
 何故か、数えてしまったゲンマ。
 亀はその短い足で、必死にガイへと向かって集合し。
 持ったクナイでバナナを小分けにし、小さな亀から与えてゆくガイ。
 大きな亀には房ごと放ってやる。自分で皮をむき、食べている亀。


「すごい光景」
「亀、寄ってきてるよ」
 ガイを取り巻く亀の群れ。
 上忍待機所というよりは亀専門の水族館といった感じ。


「カカシも犬の口寄せするよな。餌、やってるのを見た事あるか?」
 よく見える場所へ移動したゲンマ。イビキの隣へと席を取る。
「口寄せ動物に、餌がいるなんて聞いた事がない」
「そうだよな、やっぱり」
 アスマは煙草を吸い終わり。イビキとゲンマの所へ。


「…ガイだけだろ、餌やってるのは」
 部屋じゅうに充満しているバナナの甘い香り。
 その臭いで3人はむせそうだ。


「悪い人に食べられてしまったのでいつもより少ないのだ。
 みんな少しずつ我慢しろよ」


 ゲンマがはっと顔を上げると。ガイはもちろんの事、全ての亀の視線がゲンマの方を向いている。
 亀に注意を与えるガイ。


「いいかお前ら。あいつにはくれぐれも気をつけろ。亀の上前をはねる奴だぞ」


 バナナの1本や2本の事で悪人扱いされる事もないと思うが。
 けれど実際ゲンマは亀の視線をあび、体中がなんだか痛い。


「食いものの恨みは恐ろしいと言うぜ、ゲンマ」
 腕組みをしてアスマは笑う。
「相手は1万年生きる動物だ」
「…って事は、恨みも1万年の間続くって事だ」
 イビキの声は凄味がある。何だか真に迫ってゲンマを追いつめる。
「わかったわかった」
 ゲンマは立ち上がり。
「買ってくればいいんだろう、バナナ2本」
 ため息をつき、歩き出す。
 その背にイビキがゆっくりと言い放つ。
「…2本でいいのか?1万年の恨みだぞ」
「ああもう。わかったよ」
 ゲンマは財布をさぐりながら売店へと急ぐ。
「だけど何の役に立つんだ亀って」
 その答えは結局、聞けなかったゲンマだ。

(終)


いちばんお気に入りの話です。
亀がバナナなんて、ホントに食べるのか?というアナタ!
伊勢志摩水族館の亀は、バナナを食べていましたよ。
餌やりの場面を飽きもせず、45分くらい見ていた若き日の友人と私。
亀が、バナナめがけて突進(といっても、遅いですが)している姿は
生命の息吹き・そして、生きることへの執着を感じる凄さでした。(意味不明)
こんなところで、あの餌やりのシーンを再現することになろうとは…
ちなみに、奈良公園のシカは
バナナの皮が好きです。(ますます、意味不明)