博愛主義って?
木ノ葉の里上忍待機所。夕方5時。
話題が一段落ついたところで。しばしの沈黙を破ったアスマ。
「……女になりたいと思った事は無いか?」
突然何を言い出すのやら。
その場のメンバーは一様に。
はあ?とか、へ?とか。は行の擬音を口々に。
アスマは続ける。
「まだ知らない感覚ってのを知りたいと思わないか?」
ゲンマは考えもしないという風に。唇の端で少し笑った。
「男なら女になってみたい。女なら男になってみたい。……どうだよ?」
煙を吐き出して、皆の顔を一巡し訊くアスマ。
アオバは眼鏡を掛け直し。ライドウは眉をひそめただけで。
「所詮無いものねだりって奴ですか?」
ハヤテが咳込みながら。アスマを見る。
「隣りの芝生は青いと言う」
イビキの低音。
この場の皆の意志としては。
女のイビキは願い下げだ。切に願う。想像すらヤバい。
だからって女のアスマなら良いという訳では。
首を振る一同。
「思うかどうかって聞いてんだけど」
誰からも、的を射た返事を得られずに。
カカシを見るアスマ。本当は。この男の考えを聞きたい。
カカシは困った顔をして。暫く考える。
「考えた事無い」
ひょろっと言い放つ、カカシ。
アスマ舌打ちしながら。
「なってみたいだろ?」
そう言えと凄む。有無を言わせない声。
カカシは茶を啜る。んーと小さく唸って。
「……言ったらなんだかアブナイ予感がする。狼が近くにいる気配」
アスマ。図星。何も言えず。照れ隠しに、鼻をしきりと触りながら。
「……いや、まあ」
「アスマには」
一息ついてカカシ。湯呑を置き。
「男も女も関係ないでしょ」
カカシはしれっと言い放つ。
アオバとライドウの目が点になり。
ゲンマの含み笑いが漏れ。
イビキは理解不能の顔つきで。
ハヤテは何度も咳込んだ。
カカシは場の空気変化に気付き。しまったと軽く舌を出す。
本当の事は、言っちゃマズかったかな。
素早くフォローを入れるカカシ。
「アスマは博愛主義だから」
間違ってないよね言葉の使い方。
カカシは、部屋に常備の辞書を捲る。
単語発見と同時に。
隣で居眠っていた、もう1人の博愛主義者が目を覚ます。
ガイの腑抜け顔。大あくび。
男女お構いなしアスマと、人類平等のガイ。
どちらも広い範囲、博愛主義、…だよね?
同意を求めるように、ガイの跳ねた前髪を撫でつけた。
「……何の話だ?」
そう聞くガイに、カカシは無言で微笑んだ。
(終) |