見かけじゃわからない

 木ノ葉の里上忍待機所。午後4時すぎ。
 音を立て長イスに座り込んだアスマ。一服吸った後で。
「お姐ちゃん、違うコだったぜ」
 言われたカカシは報告書を作成中。
 1度は無視をしたのだが、アスマの、聞いて欲しそうな視線を感じ。
 仕方なく。
 机に向ったままで、返事する。
「その手の情報は早いね、アナタは」
 嫌味のつもりで言ったけれど、アスマは全く気付かない。
「今日のコ、いいぞ。けど、前のコは」 アスマ、思い出すように一息つき。
「危険な香りがして、手が出せなかったな」
 カカシは、思う。
 アンタの方が、か弱い乙女にとって
危険な存在だよ、と言ってやろうか。
 でもまあ、いいか。
 ペンを持つ手を止め、アスマの顔を見る。そして、聞く。
「どこの?」
「弁当屋」
「変わった訳は?」
「前の子は、かけ落ちでトンズラ」
 勇気があるヤツもいるもんだと、言いたげな表情でアスマ。
「ああ、そう」
 カカシは興味を示さない。


 奥の席から声がする。
「……危険なトコが好みだった」
 カカシの隣りで肩を落とし、座るハヤテの呟き。
 咳込もうと口元に手をやって。止めた。


「ん?」 煙草をふかすアスマ。
「えっ?」 手を止めて顔を上げるカカシ。
「似合わないセリフ」
 珍しいとでも言いたげな、アスマとカカシ。
 ハヤテは落ちぎみの肩を更に落とす。
「そういう」
 訳じゃなくてと弁解する前に。ゲホゲホと咳込んだ。
「へえ」
 カカシは頬杖を付き、ハヤテを見た。そのまま意味深に、笑う。
「だからノリ弁だったんだ、毎日」
「カラアゲもトンカツも日替わりも食べてましたけど」
 はああと溜息を吐き。そしてやっぱり咳込んだ。
「揚げもの弁当とは体に悪そうだ。しかも毎日。毒だ」
 カカシの隣でガイが、眉をひそめる。消しゴムカスが散らかる手元。
 これまた報告書を作成中。
「天プラばかり食べていてはいけないぞ」
 その発言に、同志を得たりとカカシは立ち上がり。
 ガイに左手を差し出す。
「だよね。天プラは体に悪い」
「お前のは、唯の好き嫌いにすぎん」
 せっかく出した手をガイにはじかれ、口を尖らせるカカシ。
 すとん、とイスに腰を下ろし。報告書の続きを書き始めた。


「……」
 ゴホゴホと咳込むハヤテ。
 煙を吐き出し、宙を見つめるアスマ。
 消しゴムのカスを机の穴に押し込んでいるガイ。
 その場、しばし、沈黙。間があって。
 ペンを動かしながら、最初に口を開いたのはカカシ。


「……でもハヤテには他に」
 アスマとガイの視線がカカシを捕え、
そしてアスマの視線だけがハヤテに移り。
 アスマは驚いたように。
「本当か。お前」
 煙草を取り落としそうになる。
「見かけじゃ分らんものだな」
 わざと目を反らすハヤテ。それを見ていたカカシ。


「じゃあ内緒で」
「……おい」
 何の事か分からず。話についてゆけないガイ。
 肘をつつかれて、カカシはしかたなく。
「ヒント。長い髪です」
「おう。クイズか」
 鼻息荒く次のヒントを待つ、ガイ。
 咳込みが激しくなるハヤテ。席を立とうと立ち上がる。
 カカシはふうと息を吐き。


「じゃあ、話は終わり」


「待て、分からないぞ」 カカシを睨む、ガイ。
「いろいろあるんだよ」 腕組みのアスマ。
「そうそう」 ガイの顔の前、カカシは手をひらひらさせ。
 お子様は黙っていなさいと言わんばかりの扱い。


「知った風な口をきく」 カカシに向ってアスマ。
「耳年増って言葉もあるし」 さらっと受け流すカカシ。
「ぜひお教え願いたいな」 誘うように、アスマ。
「先輩に教える事なんて」 カカシの視線を追って表情を読み取ろうとするアスマ。
 視線を合わせようとせず逃げるカカシ。
 2人の会話から全く仲間外れのガイ。少しの間唸っていたが。
「……」
 分からないものにこだわっても仕方ないと
再び、消しゴムのカス集めに没頭する。

(終)


上忍待機所で最初に書いたものです。
…つまりは、記念の品と言えば聞こえはいいけれど
手探り状態(今もですが)なので、
話のポイントとしてはガイ先生の消しゴムのカス集め、でしょうか。(なんなんだ。)
ガイ先生はそういう、男女間の情報には疎い方だと思うんですが。
でもいったん耳にしたら、しつこく聞きそうだな。
なんだ、興味あるんじゃないですか。でも、疎そうだ。


* 以下、思い出記憶帖 *
アスマとカカシの、(そしてアスマとガイの)
そういう(?)ネタを書いてみようかと思っていた頃で
頭の中に残り香があって、だからなんだか、
アスマとカカシは微妙な感じで書いてあります。
それまでの表現方法を変えたいと
探していた時期でもあります。
でも結局、今まで自分がやってきたこと、つまり
自分以外のものにはなれないということが分かった頃の
限界感みなぎる、思い出深い、作品です。
元のものは、文章がもっとぶつ切りで
「てにおは」も、怪しかった。とにかくテンポよく!とだけ思っていたんですが。
新境地を開拓したくて、変なことやっていました。
載せるにあたって、少し手直ししています。
(って、こんなこと、話の内容には全く関係ないですが)