難、去りがたし
木の葉の里上忍待機所。午後3時。おやつ時。
「買ってきたよ 」
竹の皮に載った、美味そうな焼き色付きのフランクフルトソーセージ2本。
アスマに差し出すカカシ。
「辛子はどうする?」
もうすでにケチャップ色の渦。横に黄色の小袋。カカシは指で挟む。
「アスマはいらない?」
「今更なぜ聞くんだ」
ケチャップ派のアスマ。カカシは知っている筈。
「じゃあ、ガイにあげよう」
小袋をポケットに入れるカカシ。大事そうに仕舞う。
「断りゃいいのに」
不機嫌になるアスマ。
自分の好みを知っていて、それでも何故もらって来る?
「くれるっていうから」
アスマの言葉を気にせずに。
半分ほど囓ったソーセージ。
アスマの手を引き寄せ、一口頬張るカカシ。
「おい、俺の」
言いかけて、口を噤むアスマ。手が一瞬重なり。離れた。
「…自分のを、食えよ」
妙に気恥ずかしいアスマ。手を摩る。
「あげる。アスマに」
言って窓辺に立つカカシ。
アスマはその後ろ姿を目で追いかける。
「いいの?」
ふり返らずに言う、カカシ。遠くを見る。
「誰かに取られてもいいの?所有権」
風が部屋を吹き抜ける。
「何?」
訊き返す、アスマ。
「俺の」
ふり返ってそれだけ言い、
カカシは再び窓の外へと視線を戻す。
"えっ?お前の所有権?"
アスマは驚き、腰を浮かせた。
"その気だったのか。いつからだカカシ"
アスマの心中、動揺が走る。
「早く食べないと」
含み笑い。耳馴染みの良い、カカシの声。
アスマは部屋を見回す。
カカシの後ろ姿。他には。幸いにも誰もいない。
"食っちゃってもいいって事か、ソレって。ここで。今?"
「早く」
銀髪が靡く。外で木ノ葉の振れ合う音がする。
唇の端に疑いと、期待のアスマ。滑るように移動し。
横に来たアスマを見上げたカカシ。上向きの顎のライン。
小さく吐く息。
肩に手をかけるアスマに、首をかしげる、カカシ。抱き寄せようと、アスマ。
…と、扉が開く。
茶色の大きな紙袋。抱え、顔が見えない男が入ってくる。
「残念」
呟いてカカシはアスマの傍を掏り抜ける。舌打ちするアスマ。
「ガイ」
カカシの弾む声。
袋を抱えた服の腕は緑。机に置く袋。大きさに比べ、軽そうだ。
カカシ、ポケットから、辛子の小袋。出してガイの顔の前へ。
「おう」
大きな手の真ん中に、辛子の袋。ガイはふわりと握る。
「……何か臭わないか?」
鼻をクンクンさせるガイ。アスマを見るカカシ。棒立ちのアスマ。
微かに見て取れるカカシの、意味深な口元。
先刻のソーセージ一口の所為か、油がぬらりと光を放つ。
「ガイは鼻が利く」
カカシはアスマの席のソーセージを手に取り。再びアスマを見た。
くすっと笑う。
「バレてる」
ガイの鼻先にソーセージを持ち上げ。
「これ」
「その手の加工食品は、食わないのだ、おれは」
カカシがアスマに向けた、一本糸の瞳。
よかったね。取られなくて。
アスマの思考は混乱する。
"お前はどういうつもりなんだ。それとも全くの俺の勘違いか、カカシ"
戸惑いを覚えるアスマ。
鼻クンクンを止めないガイ。
「……臭う。何の臭いだ?」
ガイの視線の先のアスマ。尋問されているような感覚。
心を見すかされているような不安感。
アスマはよろめき、一歩後退した。
(終) |