とけてしまうまで待って

 木ノ葉の上忍待機所。午後2時13分。

 部屋にカカシがいると知って、ガイは勢いよく扉を開けて入って来た。

「探したぞ、カカシ。勝負の内容を決めるのは確かお前の番だったな、今日は何にするのだ?」

「コレ」

 ガイがもう来る頃だろうと思っていたカカシは、ポケットから飴が入った袋をガサガサと取り出し、中からひとつ、指先でつまみ出した。そしてガイに渡した。
 ガイは手のひらに載せて、ジッと見る。

「飴か。いくつ食べられるか、数を競うのか?」

「違う。1個を長く舐めていられた方の勝ち」

「むぅ…」

 ガイは不満そうな顔をした。「そういうのは苦手だ」

 ガイの言葉も聞かず、カカシは素っ気なく言った。「じゃ、やるよ」

 カカシの合図で、仕方なくガイは貰った包みを破り、その小さくて丸いものを口の中へ放り込んだ。同様にカカシも口の中へ放り込む。

 ほ〜っと息を吐き、カカシは口をモグモグし始めた。味わうように、ゆっくりと舌先で飴を転がし始めた。

 そんなカカシに対してガイは。
 落ち着かない様子で、飴を口の中あちこちに行ったり来たりさせている。

「うう〜んむむ〜うう〜!!!」

 カカシのように飴をゆっくり舐めるどころか、舌の上で高速回転でもさせているかのような勢いだった。
 そんな速さでもガイにすれば、まだまだ遅すぎるらしく、早く舐め終わってしまいたいとイライラしているのが傍目にも分かる。

「ん〜うむむ〜ん〜うむむ〜うむむ〜!!!!!」

 ガイは唸り声を上げる。

「ん〜ん〜うう〜ん〜うう〜!!!」

 どうやら、飴をガリガリと噛み砕きたい気持ちを押さえるのに必死な様子だった。

「う〜う〜う〜!!!」

 唸り続けるガイに構わず。
 カカシは相変わらずのんびりと舌先で転がしていた。
しかし、勝負が始まってカカシは自分の失敗に気付いた。

「…甘い…あま…い…ノンシュガーって甘くない訳じゃナイのね」

 甘いものは嫌いなので、飴など買わないカカシは、ノンシュガーという表記だけ見て、砂糖を使っていないイコール甘くないのだと思っていたのだ。
 袋を裏返して見る。

「カロリーを控える為に甘味料で味付けがしてあるわけ?…そんなの知らないヨ…あま〜い〜」

 カカシは眉をしかめながら、ガイが早く飴を噛んでしまわないかと、とにかくそれだけを気にしながら、なるべく舌先が飴に触れない様にしつつ、出来る限りゆっくりと舐めて時間稼ぎをしていた。

 飴が甘い事は誤算だったが、この勝負、カカシは短時間で勝ちを手にする事が出来る事を確信していた。
 ガイは絶対に飴を噛む筈。
 頑張って噛まないとしても、ゆっくりなんて舐めていられない筈。

 だからカカシは、飴の甘さの地獄を、しばらくの我慢だと思っていたのだ。
 しかしガイは、何とか噛まない様にと頑張っている。
カカシは苦手な飴の甘さに辟易しながら、ガイの様子を伺う。

「うう〜んむむ〜うう〜!!!」

「ん〜うむむ〜ん〜うむむ〜うむむ〜!!!!!」

 ガイは唸り声を上げ続ける。

「ん〜ん〜うう〜ん〜うう〜!!!」

「う〜う〜う〜!!!」

 ジッとしていられなくて、ガイは部屋を落ち着き無く歩き回っている。
 眉間にシワを寄せて難しい顔をしていたのだが、その表情がある瞬間、変わった。

「…う…?うう?!う?!?!???!」


 ガイは、しまった!という顔をする。
 それをカカシは見逃さない。

「噛んだ?噛んだよね、その顔は!」

「噛んで…おらぬ。が…」

「口の中に無いんでショ!」

 図星のようで、ガイは言葉に詰まる。

「う…」

「口開けて、見せて」

「口の中には、ない」

「やった!オレの勝ちね!」

 カカシはやれやれという面持ちで、舐めていた飴をティッシュに吐き出した。
ゴミ箱めがけてポイッと捨てる。

「甘過ぎ…はあ限界に近かった…もうちょっと早く勝負が付くと思ったけど、まあ、お前にしては頑張ったヨ」

「悔しいぞ、おれは悔しい、カカシ」

「この飴、全部お前にやるヨ。好きなように噛むなり舐めるなりしなよ」

 カカシは、残っている飴の袋をガイの方へと押しやった。

「確かにおれの負けだ。それは認める…だがしかし、おれは噛んでは、おらぬ」

「敗因は一応、聞いてあげるけど」

 カカシは勝った余裕で気分がいい。

 そんなカカシに対して、ガイはいかにも悔しそうにつぶやいた。

「こんなに早く終わらせるつもりではなかった。落としたのだ」

「えっ?落ちてないよ?」

カカシは床を見回した「ないよ」

「外に落としたのではない。胃の中に落としたのだ」

「つまり飲み込んじゃったって事?」

 ガイは苦虫を噛んだような顔をして、握り拳を震わせた。
「こんな負け方、悔しいぞ、カカシ」

「だけど、負けは負け」

「こんな事になるなら思いのまま噛んでおけばよかった。飲み込んで負けとは、いかにも悔しい」

「負けは負けだから」

「悔しい…飲み込んでしまうとは情けない」

「なんか、もう一回吐くかして口に戻しそうな感じだな、お前」

 カカシの言葉に、ガイは、はっとなる。

「その手があったか!確かに飴はまだ無くなってないからな、待てカカシ、吐くから、もう1度勝負だ!!!」

「あのさ…」

 カカシは呆れた。

「汚いなぁ、既に勝負は終わったの。2度目は無し」

「牛は食べたものを何度も戻して噛み直すというぞ」

「お前はいつから牛になったんだよ」

「いいから、戻すからな、青春パワーを出せば不可能な事などないのだ、待っていろ、カカシ!!!」

 今にも口の中へ指を突っ込んでウエッとやる気満々なガイだが。
 ガイの吐く姿も見たくないし、何よりあの飴の甘さはもうこりごりなカカシは。

「ヤダ」

 決まり文句を残し、さっさと部屋を後にした。

(終)

2009.2.14