受けてみろ!おれの幻術返し!
木ノ葉の上忍待機所。午後3時56分。
何者かの手が自分の髪を撫でているのに気付き、居眠りしていたガイは
目を覚ました。
手は頭頂部から左右へと、優しく撫でるように動いている。
触られている感触が心地よくて、ガイはそのまま、動こうとしない。覚めか
けていた意識は、再び、眠りの世界へ旅立とうとする。
机に伏せたままの姿勢で、一度開けた目をまた閉じかけた。
なめらかに動き続ける手。
今、ガイの頭の上で動いているのは、手だけなのだ。手首から先の肌色
のものが、リズムに乗ってガイの髪を撫でている。
すぐにガイの、気持ちよさそうな寝息が聞こえ始めた。
突然、胸の辺りに、別の手が生えるように出現した。
それと同時に、脇にも背中にもお尻にも太ももにも。にょきにょき生えてく
る、複数の手。
つねったり、叩いたり。激しくそして忙しく動く。
それでもガイは、なかなか動こうとはしない。眠気の方が勝って、ちょっと
叩かれたくらいでは、どうって事はない様子で。
イラついた頭の手は撫でるのをやめて、今度はゲンコツでガンガン殴り始
めた。
そこまでされては目がはっきりと覚めてしまって。ガイは、がば!と体を起こ
した。
自分の体を改めて見た。手首から先だけ、いくつも体にくっついている。
「うぉお何だ、これは!」
隣で本に夢中のカカシに向かって、驚きの声をあげる。
カカシは本から目を離さずに、抑揚の無い声で言った。
「起こしてって頼まれた時間に、いくら声かけても、起きない〜から。面倒だ
から術、使った」
「ああ?そうか、すまん」
とはいえ術は解かれずに、いまだ手首は変わらずに動き続けて、今度は
体をぴたぴたと叩いている。くすぐっているものもある。
あきらかに、ガイの体で遊んでいる様子が見て取れる。
ガイはカカシを更に睨んだ。カカシは気にも留めない。
「術を解け、カカシ」
返事は、ない。
ガイは口をへの字に結ぶ。しばらく考えた。
そして、胸のあたりを見下ろした。
そこからにょきと出ている手首の、細く長い指先をつかむ。さっき一瞬だ
け、ピースサインをしていたのを、ガイは見逃さなかった。
ふざけたことを。
他の手はただのニセものだが、これだけは。
むん。
力強く握った。さらに手の甲やら指先の付け根やらを、もう片方の手で
揉み揉みし始める。
「うっひゃあ!」
カカシは叫んで本を取り落とした。瞬時に、ガイの体から多数の手首が
立ち消える。
「ふふん、どうだ。カカシ」
腕組みをし、勝ち誇ったような顔をするガイ。
カカシは本を閉じ、ポシェットへとしまう。はあ、と小さくため息をついた。そ
して、ガイの手の感触の残る指先を、そっと撫でた。
シンプルな中に力強さを感じる、 お前の幻術返し。
誠に、恐るべし!!
正当な幻術返しで応戦してこないガイの、その心意気に口惜しさを感じ
ながら、カカシは、ガイの走り去ってゆく方向へと、鋭い視線を投げかけた。
(終) |